朝のラッシュ時には踏切の遮断機があかずの間となってしまいます。しかもそこをゆっくり「踊子号」が通過したりすると「こちらは仕事なのにそっちはのんびり旅行か」と思ったりします。しかしビルの谷間を移動していると、この踏切空間は貴重なオープンスペースで、ここだけは見通しがよく空が広く見えることに気づきます。 |
線路の景色はアールデコ時代のポスター、特にカッサンドルの作品「北極星号」を思い出させます。これは大恐慌直前の華やかで力強い構図ですが、それに続く世代の在仏日本人サトミの、やはり鉄道を描いた日本国有鉄道のポスター「JAPAN」は凄まじいスピード感の絵柄で、今見てもどこへ向かって走るのかと不安にかられるほど。現在は逆にこの停滞がどこまで続くのかが不安という時代です。 |
ポスター「北極星号」のようなドラマチックな目標物は見当たらないものの、この線路をたどれば「踊子号」の伊豆半島はもとより日本列島のすみずみまで行けるわけです。それでなくとも踏切には、古びた小さな自然がある。土手の石垣には蔓性の草が這い、自生なのか誰かが植えたものか今の時代には珍しいカンナがオレンジの花を咲かせていてなにかホッとしますね。 |
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