鶴見線という単線の終点。東芝の工場と海とにはさまれて電車は駅にすべり込む。対岸も工場で、その先にベイブリッジが見える。海側の手すりには至る所にいたずら書き。「パパ、会社ガンバッテネ。」穏やかな日射し、穏やかな海、時間が止まったような昼下がりです。 |
94年の芥川賞笙野頼子の小説の舞台。一方が海で一方が東芝の工場「駅から外へ出るには、社員証を見せるか海に飛び込むしかない」と。しかしほほえましいいたずら書きを見ながらおだやかな日射しを浴びていると、ここで生涯を全うするのはすばらしいことだと思えてきます。終身雇用とともに発展し始めていた、映画「東京物語」の頃の日本へのノスタルジー。 |
海芝浦行きの電車の出る鶴見駅のホームは独特の風格があります。太い鉄骨は根元から頂部まで連続的にカーブしてつながったアーチをなしていて、今ではもう殆ど見ることのないリベット止めになっています。天窓からは明るい光が落ちてくる。鉄骨のヴォールト屋根に包まれた鉄道の端部という小規模ながら「終着駅」のつくりになっているのです。
初めてでも懐かしいひそやかな終着駅。 |
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